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Tamaniwaワークショップの標準コースでは塗装は省略されています。塗装の技術は短時間では習得できないということと、行程自体が長期間を要するというのがその理由です。しかしギターは塗装を施されて初めて楽器として完成します。塗装はギター製作とはまったく別個の作業とも言えますが、その概略を理解してもらうためにこの項を設けました。

ここではシェラック塗装のご説明をします。シェラック塗装のうちタンポによる塗装、フレンチポリッシュといわれる塗装法です。ギターの製作法と同様フレンチポリッシュにも様々な方法があります。それこそ施す人の数だけあると言ってもいいでしょう。ですからここでご説明するのはあくまでもわたしのとっている方法であって、これが正しいフレンチポリッシュだというわけではありませんからこの点はご了承下さい。また同じ方法を採用しても作業する人によってタンポンに塗料を含ませる量、タンポンにかける圧力、時間などは違います。また研磨の頻度も変わってきます。各自がそれぞれの好みにあったやり方を見つけだすことが必要です。要するに「経験」することが大事なのです。

IMG0893これがシェラックフレークです。融けやすいようにすでに細かくしてあります。シェラック溶液には寿命(だいたい半年くらい)がありますからあまりたくさん作っても無駄になります。せいぜい200ccくらいでいいでしょう。わたしはもっと少なく120ccしか作りません。ちなみに古い溶液を使うとどうなるかというと、ギターはいつまで経っても触るとベタベタして、乾いたと思っても洋服の生地の跡がついたり、こすれたところが白っぽくツヤがなくなったりします。

120cc のアルコール(いろいろと言われていますが、工業用アルコールで十分です。もちろん呑んではいけません)に28〜30gのシェラックを溶かします。温度条件がよければ2日くらいで溶けます。頻繁に揺らしていれば1日でも溶けることがあります。コーヒーの濾紙などを利用してこの溶液を漉します。密閉しやすいビンなどに入れておきます。必要な分だけスポイトビンに入れます。

 

IMG0876右からシェラック液、アルコール、そしてジョンソンのベビーオイルです。なぜジョンソンベビーオイルかは後ほどご説明します。上にあるのがタンポンです。といっても何か細工をしたわけではなく、単にTシャツの古いものを15センチ角くらいに切ったものを丸めただけのものです。糸で縛っていないテルテル坊主のような格好です。シッポを持ってぎゅっと絞るようにして頭を丸くします。

まずギター全体にていねいにヤスリをかけます。320番くらいで仕上げます。あまりにも当然のことですのでいい加減にやる方が多いのですが、実はこの下地作りが大切です。これがいい加減だとどんなにていねいに塗装してもうまくいきません。力を入れずに丹念にヤスってください。

十分に明るい作業台を用意します。斜め45度から照らすスポットライトなどがあると便利です。

 

 

第1日 Seal coat 下塗り (S1:A1)

ヤスリ掛けで出た埃をよくふき取ります。一枚の布(平織りでもニットでも結構ですが、かならず綿であること)を四つ、あるいは三角に折ってシェラック(以後Sと書きます)、アルコール(以後A) を同量(1〜2滴)垂らします。サウンドボードのバインディング部分に布を当ててシェラックを塗ります。ネック側から右半分を先に塗ります。この時布は持ち直さずに一気に動かします。新しい面にまた液を垂らし、左半分を塗ります。これはバインディングやパーフリングの色がサウンドボードに移らないように色止めする作業です。裏側もパーフリングの白が染まって欲しくないときは同様にします。ロゼットの部分も同じように塗ります。一度布を持ち上げたらかならず新しい面を使うように注意します。

ぬれた布巾で拭くような感じでシェラックを全体に塗ります。たたんだ布あるいは丸めた布、どちらでも構いませんがたっぷりと液(同量)を含ませておきます。人によってはこれをwash coatと呼びます。1時間ほど乾燥させます。

もう一度全体に塗ります。乾燥したら目止めをします。シリコン系でも、エポキシ(乾燥が遅いので落とすのは翌日になります)でも構いませんが、無色であること。あるいは面倒でなければピュミス(軽石の微細粉)を使って丹念にこすってもいいです。目止めはリブやバック、ヘッドなどに施します。分厚い塗装を目指すのでなければサウンドボードには必要ないでしょう。気の遠くなるような時間と回数をもいとわないという方は目止めの必要はありません。ローズウッドなどの材は気孔や導管などが大きく開いています。塗装の際にこの小さな穴がなかなか埋まらず滑らかな塗面が作れないために目止めをします。要は穴が埋まればいいのです。

目止めが乾燥したら220番のペーパーで目止め剤を落とします。ホコリを払ってもう一度シェラックを塗り、目止めを繰り返します。
もう一度220番でヤスリます。さらに前回と同じようにシェラックを塗ります。

目止めの結果がよければ塗装の行程に移ります。

第2日

第1セッション(S5:A1) 最初にリブのどちらかを上にして台の上に置きます。リブの1/3を目安に塗り始めます。パッド(タンポン)にS5、A1を含ませます。一カ所につきこの分量のシェラックを3回くらい繰り返してください。パッドを塗面につけるときと塗面から離すとき、パッドが停止しないように注意します。パッドは常に動いている状態で着地したり離陸したりします。パッドは常時動いていなければならないのですから、パッドは円運動をすることになります。直線運動では方向が変わるときに一瞬停止てししまうことになりますから。パッドの滑りが悪く引っかかるようでしたら、ここでベビーオイルが登場します。潤滑油として使うオイルは人によって異なります。オリーブオイルがいいという人、リンシードオイルだという人、植物油がいい、いや鉱物油だという人、様々ですがいろいろ試した結果鉱物油であるベビーオイルになりました。ジョンソンベビーオイルは無添加ですから向いていると思います。オリーブオイルは乾きが遅いようです。液を含ませたパッドの表面にベビーオイルをほんの僅かつけるだけです。これでパッドの滑りは大幅に改善されます。

IMG0890リブ1の次は表、リブ2,バックと進めます。パッドは直径3センチから5センチほどの円を描きながら進めます。全体をまんべんなくこするように注意します。特に円の周辺部、バインディングの近くなどは回数が減りますから十分にこするようにします。パッドが縁から落ちないように注意しないと、爪などが当たってキズをつけてしまうことになります。パッドに含ませた液がなくなってきたなと感じたら液を補充します。光にすかしてみるとパッドの通った後に薄く膜が張るのが見えます。これも補充の目安になります。表や裏の広い面はおおざっぱに4等分ないし6等分にエリアを決め、それぞれのエリア内を集中して塗り込んでいきます。パッドの大きさや含ませる液の量にも依りますが、初めはあまりエリアを大きくしない方がいいでしょう。各エリアはお互いにオーバーラップします。
すべて終了するのに1時間半から2時間かかります。写真ではセーターを着用した腕が見えますが、できればこれは避けた方がいいです。シェラックに限らず塗装にホコリは大敵です。特に行程の初期には気をつける必要があります。個人の工房では塵ひとつない状態など期待できませんが、せめて自分からはホコリを出さないようにしましょう。毛足の短い衣類を着たほうがいいでしょう。
塗り終わったら次の日まで乾燥させます。タンポンにはスポイト2本分くらいのアルコールを含ませて密封容器に入れておきます。

 

 

第3日 第2セッション (S5:A1)

IMG0875前日塗った面はこんなふうになっています。窓の光が映りこんでいます。まだむらむらです。擦り込んだオイルは塗面にはしみこまず、表に浮いています。
第2セッション----第1セッションをくり返します。パッドが描く円は前日よりだんだん大きくなります。
特に次の場所に移る前には木目方向に長くなる楕円運動になります。

塗装作業は眼で確認しながらおこなうのはもちろんですが、聴覚も触覚も駆使します。耳ではパッドと塗面とがこすれる音を確認します。塗面ができあがってくるにつれて音は滑らかに静かになってきます。指先に感じる抵抗感(じつに微妙な)も順次変わっていきます。味覚と嗅覚以外の感覚をとぎすます必要があるわけです。

 

 

 

第4日 水研ぎと第3セッション (S4:A2)

IMG0896前日に比べるといくぶんツヤが出てきました。今回は水研ぎ(wet sanding)をします。600番の耐水ペーパーを用意します。しばらく前から水に浸けておいてなじませてから使います。ところでこのペーパーの番手ですが、国によって規格が違うことを知っておいてください。ギター製作に必要と思われる部分だけを選んで比較してみます。

どの国の製品を用意するかによって番手が異なりますのでご注意ください。いずれも手研磨の例です。機械を使う場合は一段階以上番手をあげた(つまり目を細かくする)方がいいでしょう。どの製品でもおおよそ400番くらいから耐水ペーパーがあります。この工房では9ミクロンと30ミクロンのフィルムを使います。JISでだいたい#1800,#600に相当するのではないかと思います。また使われている粒子によってG, AA, WA, CC, GCなどの記号が書いてある場合もあります。

耐水ペーパーはあらかじめ水に浸けて湿らせておきます。フィルムの場合はそれほど長く浸けておく必要はありません。この段階ではシェラックはごく薄くしか塗られていませんから、そっとなでるように研磨します。特にバインディングの角などはすぐに地肌が出てしまいますから力を入れないように気をつけます。乾いた状態ではこすらないこと。ペーパーは常に濡らしておくこと。

米国

欧州
P

日本
JIS

320

P400

500

220

P220

280

120

P120

150

9micron

1800?

30micron

600?

水研ぎのあと1時間くらいしたら第3セッションにかかります。第3セッションからはタンポンに含ませる割合をS4:A2にします。タンポンは常に布を引っぱって堅くしておきます。布が弛んでいると動きがグラグラして思わぬ失敗をします。てるてる坊主の首を絞めるような感じで絞っておきます。

全体をよく調べてかすれているところや塗りの薄いところがあったら、集中的に塗り込みます。

IMG0898

一晩乾燥させます。                  IMG0899


 

 

 

 

 

IMG0900   

 

 

 

 

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